7月18日、毎月定例の勉強会(非公開)を開催し、今回は東京大学 公共政策大学院の川口大司 院長をお招きしました。
川口先生は労働経済学の実証研究、特に人的資本形成過程の分析とその経済格差への影響に関する実証分析を数多く行なっておられます。今回の講演では、「新技術と人口減少時代へ対応する労働生産性向上」に焦点を当て、新しい技術を豊かな働き方につなげるためにできることについて、代表的な過去の研究から最新のものまで統括的にご紹介いただきました。
これまでの勉強会では、ウェルビーイングを意識した生産性向上に関する技術ベースの議論を行ってきましたが、今回初めて経済学の視点での議論となりました。1970年代から2010年代の産業用ロボットの導入、2019年のタクシーへのAI搭載、20世紀初頭の福井における自動織機の導入の3つの具体的なケースを取り上げて、経済学者ならではの分析と社会への影響を論じていただきました。
人々のウェルビーイングの重要な決定要因として、雇用機会や生産性・賃金をアウトカム指標として考える。実証経済学では(自然科学と異なり)非実験環境で生み出されたデータより因果関係を導き出すことに特徴がある。表面的な数値分析では一見逆の結果を与える恐れもあり、固定効果+操作変数推定法など本質的なフィルターの導入により特質を正しく抽出できる。
● 人々のウェルビーイングの重要な決定要因として、雇用機会や生産性・賃金をアウトカム指標として考える。実証経済学では(自然科学と異なり)非実験環境で生み出されたデータより因果関係を導き出すことに特徴がある。表面的な数値分析では一見逆の結果を与える恐れもあり、固定効果+操作変数推定法など本質的なフィルターの導入により特質を正しく抽出できる。
● 【1970年代から2010年代の産業用ロボットの導入の分析結果】 産業用ロボットの価格低下が産業によって異なったことを用いた分析を通じてロボット導入が生産性向上を通じて雇用を増やしたことが明らかになった。欧米の結果と異なる結果が得られた理由として、1980年代の製造業大企業ではメンバーシップ型雇用が主流で労働者が技術導入に協力的であったことが示唆された。
● 【2019年のタクシーへのAI搭載の分析結果】 ベテラン労働者が持っている経験則から予測するという能力がAIによって置き替えられることで、経験の低い運転手のAIによる生産性向上効果が集中した。これは、ベテランしかできなかった仕事を若手や女性が代わりに行うといったことが起こりうると期待できる(ダイバーシティー・インクルージョン)。
● 【20世紀初頭の福井における自動織機の導入の分析結果】 電動の力織機の導入はエンジニア雇用と賃金を増加させ、女工の雇用を激減させた。また工場間の人材獲得競争を激化させ、低生産性向上の退出を促した。
などのお話が有り、「新しい技術の誕生はその技術をどのように職場に取り込むのか、どのように人事のあり方を変えていくのか、どのように企業の経営を変えていくのかといった社会の適応の仕方が豊かな働き方を実現するかどうかの決め手になる。新技術脅威論を乗り越え、新技術の果実を豊かな働き方の実現につなげていくために必要な社会制度の変革を考える必要が有る」と理解しました。