NEWS

2024.9.3

「ヒト・モノの動きのモデル化と社会実装」についての勉強会を開催しました。

8月20日、毎月恒例の勉強会(非公開)を開催しました。第5回の今回は、東京大学大学院工学系研究科 システム創成学専攻の藤井 秀樹准教授をお招きし、「ヒト・モノの動きのモデル化と社会実装」についてご講演いただきました。

藤井先生は、マルチエージェントシミュレーションを用いて、社会モデリングや社会シミュレーションの研究に取り組んでおられます。多くのステークホルダーが関与する社会や経済のシステムにおいて、意思決定や合意形成は非常に複雑なものになっています。藤井先生の研究では、こうした複雑なシステムにおいて、ステークホルダー間や環境との相互作用をシミュレーションに組み込み、社会システムのデザインを通じて、持続可能な社会の実現や市民の生活の質(QoL)の向上に貢献することを目指しています。

事例として、新設信号機の制御パラメータ最適化について、マルチエージェント交通流シミュレータを使用した研究をご紹介いただきました。

また、電動スクーターやセグウェイといったマイクロモビリティが歩行者に与える安全性や交通量等の影響評価を行ったシミュレーション(群衆シミュレーション)についてもご説明いただきました。

さらに、藤井先生は世帯動態シミュレーションにも取り組まれており、既存の動的マクロモデル(大規模な解析が可能だが、ミクロな行動主体を扱えない)、動的ミクロモデル(世帯・住民をエージェントとし、その粒度での都市政策の影響を反映可能だが、仮定するパラメータが増大)でのシミュレーションに対し、世帯を単位として、世帯を構成する住民状態を内部変数とするメゾモデルの採用を提案されており、横浜市の世帯推移シミュレーションの結果は実データと比較すると国勢調査の結果に近似していたことが確認できました。

勉強会の参加者からは、これらの交通シミュレーションや世帯動態シミュレーションを組み合わせて新たな都市デザインに活用できるのではないか、というコメントも寄せられました。

また、社会システム(人間を含む人工物システム)のデザインにおける重要なポイントとして、①設計変数の選定、②未知の入力情報の有無、③目的変数の設定、④シミュレータの選定、⑤最適化アルゴリズム、の5つのポイントを挙げられました。

今回の藤井先生のご講演の中で、社会システムのデザインやモデル化において、物理的な社会インフラが静的なものであるのに対し、社会システムは動的であり、モノではなくコトを生み出すものであること、そして社会システムは一度失敗すると替えが利かないため、シミュレーションによって得られた結果を合意形成の場に投入・活用して支援していく、というお話からは、貴重な示唆を得ることができました。